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京都地方裁判所 昭和33年(む)5号 判決 1958年2月01日

被疑者 小川伊三郎

★ 決定

(被疑者氏名)(略)

右の者に対する入札妨害被疑事件につき昭和三三年一月二七日為された勾留延長の処分に対して弁護人前堀政幸から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

本件申立の要旨は京都地方裁判所裁判官は昭和三三年一月二七日右被疑者に対する入札妨害被疑事件につき同人に対する勾留期間を一〇日間延長する旨の裁判をしたが該裁判は左記理由により不当であるからこれが取消を求める即ち被疑者は本件勾留以前に司法警察職員に対し、また勾留に際しても検察官並びに裁判官に対し、夫々本件被疑事実を自白しているのであるから、検察官が右被疑事実に対する取調を完了するには過去一〇日間の勾留で充分である。然るに検察官は右期間内に被疑者に対し別件贈賄事実の探知の為めに取調を続け、本件被疑事実については殆どその取調をしなかつた。従つて検察官が本件被疑事実を取調べる為め更に本件勾留期間の延長を請求したのは勾留権の濫用であり、前記裁判官が右請求を許容して前記延長決定をしたのは法令の解釈を歪曲し人権を無視するものである。

と謂うにある。

仍て按ずるに一件記録によれば被疑者は昭和三三年一月一七日所論入札妨害被疑事件で逮捕状を執行され、引続き同月一八日勾留処分に付され、更に同月二七日右勾留延長の処分が為されたことが明らかでその延長期間は一〇日間ではなく三日間である。本件のような関係者の多い複雑な被疑事件について関係者の一部が司法警察員や検察官に自白しても、検察官が尚他の証拠を集めるために勾留を継続する必要も認められる、特に起訴に必要な補強証拠をも取調べなければならない、又本件について検察官の捜査活動が敏速でないとしても検察官がこれに直接間接関連する他の複雑な事件の迅速な捜査をも必要と認めて併行している多忙な状態も推察することができる。裁判官がそのような事情を汲み已むを得ない事情があると認めて検察官の請求を容れ本件被疑者に対する起訴前の勾留期日を三日延長した処分は相当である。よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項に従つてこれを棄却することとし主文の通り決定する。

(裁判官 小田春雄 石山豊太郎 中川臣朗)

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